「小学生に入学した子供の65%は今はまだ無い職業に就く」に根拠・データはあるのか?

「小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろう」
という有名な発言があります。

小学校に入学してから大学を卒業するまでは、すんなりいけば16年です。
16年でそれだけの新しい仕事・雇用が誕生するのは、とても素晴らしいことです。

しかし、この数字は真実なのでしょうか。
65%という数字に根拠となる統計・データはあるのでしょうか。
すこし私の肌感覚と乖離があったので、65%という数字の信憑性について調べてみました。

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発言したのはアメリカの大学院教授キャシー・デビッドソンさん

「小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろう」
この発言をしたのは、ニューヨーク市立大学大学院センター教授キャシー・デビッドソン(Cathy Davidson)さんです。

サイト管理人 南研吾
サイト管理人 南研吾
ここからはキャシー・デビッドソンさんの敬称を省略します。

キャシー・デビッドソンは、どうやら

  • 2011年8月に公開されたニューヨークタイムズのインタビュー[1]The New York Times:Education Needs a Digital-Age Upgrade
  • 2012年7月に発行された自身の本「Now You See It」[2]Amazon:Now You See It: How Technology and Brain Science Will Transform Schools and

などで65%という数字を使ったようです。

キャシー・デビッドソンさんの著作「Now You See It」

この数字は世界中に衝撃を与え、日本でも

などをはじめとした、教育・経済系のたくさんのメディアで発言が引用されています。
海外に目を向けても、世界経済フォーラムのような機関がこの数字を引用しています[3]The World Economic Forum:The Future of Jobs

これらのメディアにより、65%という数字はさも当然の事実のように認識されるようになりました。

もし65%という数字が事実なら、子供をもつ親御さんや教育関係の仕事をしている人は大変です。
ならなら、子供や学生に指導する内容を変えてなくてはいけないからです。

65%という数字に根拠となる統計・データは無い

もし、この記事をいま読んでくださっている方が23歳以上なら、小学一年生の時のことを思い出してください。
そして、同級生たちが今どんな仕事をしているかを思い浮かべてください。
同級生の65%、つまり3分の2は、小学校の頃はなかった仕事をしていますか?
たぶんそんなことは無いはずです。

実際のところ、65%という数字はどうなのでしょう?
結論を言うと、報道機関や個人が調査した結果、65%に根拠は無いようです。

本人は2012年から65%という数字を使わなくなっていた

65%という数字に強いインパクトがあったのでしょう。
さまざまな報道機関等が65%という数字の信憑性を調査しています。
その結果として

英BBC放送は2017年、丸々1セグメント分の放送枠を使い、この数字が偽りであることを指摘した。
また教育ブロガーのベンジャミン・ドックスデーターも同年、この数字の由来を徹底的に調査し、「真実ではない」という結論に達している。ドックスデーターによると、これと似たような主張は少なくとも1957年には出現していたという。

引用元:「小学生の65%が今存在しない仕事に就く」は本当なのか

このような報道が出ています。

キャシー・デビッドソンへの問い合わせも世界中からあったようで、本人も2017年5月に

I haven’t used that figure since about 2012.
2012年頃からその数字を使っていません
(翻訳は著者)

引用元:65% of Future Jobs Haven’t Been Invented Yet? Cathy Davidson Responds to Cathy Davidson and the BBC

このように、告白というか白状しています。
この65%という数字は、10年近く前から本人は使っていないのです。
それなのに、日本のメディアでは今だに引用され続けています。
数字が一人歩きし、どんどん拡散してしまっているのですね。

キャシー・デビッドソンはジム・キャロルの著作から引用しただけ

キャシー・デビッドソンは、2012年から65%という数字を使っていないことを告白した記事の中で、この数字の元ネタについても語っています。
それによると、元ネタはジム・キャロルさん(ここからは敬称を省略します)が2007年に出版した
「Ready, Set, Done」
という書籍です。

ジム・キャロル(Jim Carroll)の「Ready, Set, Done」

じゃあジム・キャロルはどの統計・データを使ったのか調べてみると、2008年のブログで

It’s from an Australian study which concluded that 65% of the kids in pre-school today will work in jobs or careers that do not yet exist.
オーストラリアのある調査によると、今日まだ就学していない子供たちの65%は、いま存在していない仕事やキャリアで働くと結論付けています。

引用元:“65% OF THE KIDS IN PRESCHOOL TODAY WILL WORK IN JOBS OR CAREERS THAT DON’T YET EXIST”

このように書いています。

つまりキャシー・デビッドソンが引用したジム・キャロルも、どこかにあったデータを引用していたのです。

オーストラリアの調査は見つからず

ジム・キャロルはブログ内で、具体的にどのオーストラリアの調査から65%という言葉を引用したかを明らかにしていません。

それでも、キャシー・デビッドソンはオーストラリアの調査を見つけようとしたようです。
しかし、彼女はその調査を見つけることはできませんでした。
確認できたのは、その調査が掲載されている(と推測できる)サイトが閉鎖されていることだったようです[4]hastac:65% of Future Jobs Haven’t Been Invented Yet? Cathy Davidson Responds to Cathy Davidson and the BBC

つまり
「小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろう」
この発言に根拠となる統計やデータはありません。

あったとしても、ジム・キャロルの本が発表される2007年以前の調査です。

かりに2006年に
「小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろう」
この主張を裏付けるデータがあったとします。
けれど、1990年(2006年の16年前)と2021年つまり現在では社会の状況がまったく違います。

初代のiPhoneが発売されたのは2007年6月29日です。
だから2006年当時、この世界にスマホはなかったのです。
2006年、日本ではモバゲー(当時はモバゲータウン)がリリースされ、みんながガラケーでモバゲーをやっていた時代です。

だから当時のデータを現在や未来にそのまま当てはめて信用するのはかなり無理があります。
それに、おそらく当時は今よりも社会の変化が遅かった時代です。
そんな時代にたった16年で人々の職業がどんどん入れ替わったとは思えません。

なので、65%という数字は何かの間違い、もしくは誰かの勘違いだったのだと思います。

新しい仕事が生まれるスピードが上がっているのは間違いない

ここまでで
「小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろう」
この説に根拠がないことがわかったと思います。
しかし、この説に衝撃を受けた親御さんや教育関係者は安心してはいけません。

というのも、インターネットやスマホの普及で変化のスピードが上がっているのは間違いないからです。
だから、もし2021年に小学校に入学した子供が、16年後の2037年に今はない仕事をしている可能性はけっこう高いと思います。

基本的に新しい職業は世の中の風習や需要の変化に対応した結果生まれるものです。
だから、若い人が大人が知らない新しい仕事に就くことはとても良いことなのです。

もしお子さんや指導する学生さんが、見たことも聞いたこともない仕事に就きたい!と言ったら
「そんな聞いたことがない仕事はだめ!」
なんて風に言わず、きちんと調べてから判断しましょう。
無理矢理止めたりしたら、その子は社会から取り残されてしまうかもしれないからです。

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