2021年の夏、アメリカの大学がユニークな取り組みを発表しました。
それは
「学位保険」
という、大学に在籍する学生向けのサービスです。
学位保険とは、一言でいえば
「大学側が保険会社に学生の保険料を支払うことにより、学生の大学卒業後5年間の収入が保証される保険」
このようなサービスです。
つまり、大学側が卒業後5年間の収入を約束(コミット)してくれるのです。
たとえるなら
「収入版のライザップ」
みたいなサービスとも言えそうですね。
なのでもし大学生が学位保険に加入できたら、大学卒業後に貧困や奨学金の返済で苦しむ確率が減ることになります。
学位保険の概要・仕組み
おそらく、ほとんどの方は学位保険という言葉を聞いたことすら無いと思います。
なので簡単に学位保険の概要や仕組みを説明します。
学位保険の導入がはじまったのはアメリカ
学位保険はかなり新しい保険です。
世界的にも新しい保険サービスなので、2021年8月現在日本には学位保険というサービスは無いようです。
スケジュールとしては、まずはアメリカの大学で2021年の秋から学位保険がテスト的に導入されることになっています[1]Augustana College:College to offer ‘income insurance’ for new transfers。
学位保険を導入するのは、イリノイ州にあるオーガスタナ・カレッジという大学です。
そして、オーガスタナ・カレッジに学位保険を提供する保険会社は同じくアメリカのDegree Insurance Co.です。
保険会社が保証するのは「大学卒業後5年間の収入」
冒頭ですこしふれましたが、学位保険は大学側が学生一人一人に対しての保険料を保険会社に支払う仕組みです。
これによって学生は無料で学位保険に加入でき
「大学を卒業してから5年間の収入」
が保証されます。
収入が保証されることから、アメリカでは
「収入保険(income Insurance)」
なんていう風にも呼ばれているようですね。
保証される金額は大学や専攻によって上下する
学位保険が保証する収入額は一律で同じではありません。
加入者ごとでバラつきがあります。
というのも、保証される金額については学生の
- 通っている大学
- 選んでいる専攻
などによって変化するからです。
じっさいにどの学部を卒業すればどれくらいの金額が保証されるか見てみましょう。
学位保険を手掛けている「Degree Insurance Co.」は公式サイトで、大学の専攻ごとで保証される金額の事例を公開しています[3]Degree Insurance:Students Degree Insurance。
かなりざっくりとした事例ですが、このようになっています。
基本的には、社会人になってからお金が稼げる確率が高い大学や専攻であればあるほど保証してもらえる金額は高くなるようです。
受け取れるのは保証額と実際の収入の差額
学位保険を利用して、年収500万円が保証されたとします。
この場合、卒業後に就職して収入が500万円に満たない時にだけ保証された金額を受け取れます。
例をあげましょう。
仮にあなたが学位保険に加入でき、年収500万円が保証されたとします。
この場合、保証金を受け取れるのは年収500万円未満だった場合のみです。
つまり
- 保証された収入
- 実際の収入
このふたつを比較し、「実際の収入」の方が少なかった時に「保証された収入」との差額を受け取ることができるのです。
保険金は卒業から5年後に一括で受け取り可能
「大学を卒業してから5年間の収入が保証される」
と聞くと、自動的に毎月決まった金額が貯金口座に振り込まれるようなイメージがあります。
このような仕組みだと、仕事へのモチベーションが下がり、おそらく仕事をしなくなる人が増えるでしょう。
なので学位保険では、保証された金額を大学卒業から5年後に一括で振り込む、という仕組みになっています。
まとめると、学位保険に加入できれば
- 学位保険が卒業後5年間で保証した収入
- 大学卒業から5年間で得た収入
このふたつの差額分を、卒業から5年後に一括で受け取ることができるのです。
なぜ学位保険が登場したのか?
ここまで、学資保険の仕組みについて説明しましたが、ここからは少し話がそれます。
なぜ学位保険のような仕組みが必要なのか、その背景を考えましょう。
大学進学には多額の資金が必要
2021年現在で年齢が65歳以上の方と話すと
「私たちが大学に行ってた頃は学費は安かったんだよ」
という話を聞くことがあります。
どうやら、むかしは今と比べたら大学進学にあたって必要なお金は少なかったようなのです。
対照的に、最近は若者の貧困や奨学金を返済できない大卒社会人の話をニュースなどでよく聞きます。
では、さいきんの大学生はどれくらいの学費を支払っているのでしょうか。
リセマムというサイトによると、大学進学で必要になるお金は
平均667万円
とのことです。
親元を離れて一人暮らしをした場合、必要になる金額は倍近く増えて
1211.6万円
になります[4]リセマム:大学費用は一人暮らしで1,000万円以上…どう調達する?。
これだけのお金を支払うのはとても大変です。
金銭的に余裕があるお家ならともかく、そうでないお家にとってはかなりしんどい金額ですよね。
なので、たくさんの若者が奨学金を借りて大学にかよっているのです[5]労働者福祉中央協議会:「奨学金や教育負担に関するアンケート調査」。
有利子で奨学金を借りた場合、実態としてそのお金は借金と変わりません。
ということは、借金をしてまで大学に通っている人が結構いるのです。
大学は投資した金額に対する金銭的リターンの予測が難しい
ここまでで、大学生は数百万円ときには1,000万円以上という大金をつかって大学に通っていることがわかったと思います。
では、大学に進学すれば将来はバラ色なのでしょうか。
ニッセイ基礎研究所によると、大学を卒業した34歳以下で、正社員になっている人の割合は
79.6%
です[6]ニッセイ基礎研究所 :学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か。
ということは、大学を卒業しても5人に1人は正社員として働いていないのです。
非正規雇用よりも正社員の方が優れている訳ではありません。
しかし、社会保険に加入できないことを考えると、生活が不安定になりやすいのは非正規雇用の方です。
そして、大学を卒業したからといって正社員としての将来が保証される訳ではありません。
「投資」という観点で大学進学を考えると、これでは確実性が高い投資とはいえません。
なので、投資に対する不確実性を下げるサービスが社会から求められています。
それが「学位保険」なのです。
学位保険によって大学進学が確実性の高い投資になる
学位保険を提供しているDegree Insurance社のCEOであるWade Eyerly(ウェイド・アイヤリー)氏はForbesの取材に対して以下のように答えています。
「我々は初めて、大学が自らの提供する教育に責任をもち、学生に対して学習の投資利益率(ROI)を保証するところを見ることになる。」
この
「学生に対して学習の投資利益率(ROI)を保証する」
というのはとても素晴らしい考え方です。
大学生活は
- たくさんの学費(数百万から1000万円以上)
- 4年間(時にはもっと)という長い時間
などがコストとして必要になりますが、どんなリターンが返ってくるかは未知数です。
しかし学位保険を利用すれば投資の不確実性を下げることができるのです。
これは、学位保険を利用することの大きなメリットです。
他にも学位保険には
- (収入が保証されるので)大学に通うことに本人や両親が前向きになれやすい
- (収入が保証されるので)将来設計がしやすくなる
などのメリットがあります。
アメリカですら始まったばかりなので、学位保険が日本でいつスタートするかはわかりません。
ですが、学位保険は学生にとってたくさんのメリットがあるサービスです。
もし日本で学位保険がはじまったら中身をチェックしてください。
そして、タイミングや条件がよかったらぜひ申し込んでください。
引用・脚注
↑1 | Augustana College:College to offer ‘income insurance’ for new transfers |
---|---|
↑2 | American Enterprise Institute:There’s insurance for homes or cars—why not college degrees? |
↑3 | Degree Insurance:Students Degree Insurance |
↑4 | リセマム:大学費用は一人暮らしで1,000万円以上…どう調達する? |
↑5 | 労働者福祉中央協議会:「奨学金や教育負担に関するアンケート調査」 |
↑6 | ニッセイ基礎研究所 :学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か |
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