「培養肉(ばいようにく)」
という、牛などの動物から採取した少量の細胞から人工的に作られる肉が注目されています。
培養肉は大豆などの植物性タンパク質から作る「代替肉」とは違い、まちがいなく肉そのものです。
なので、もし培養肉が消費者の間で普及したら畜産農家などは経済的な大打撃を受けることになります。
この記事では、培養肉に関する
「もし」
が想像よりも早く実現するのでは?というデータやエピソードを紹介します。
培養牛肉のメリット
はじめに、人が培養肉を食べることのメリットについて紹介します。
まず、培養肉の食べることによって、屠殺される動物(牛・豚・鳥など)が減ります。
なぜなら、培養肉はこれらの動物から採取された細胞を工場で培養して作られるからです。
このような方法なら、人間のために生き物を屠殺する必要性が無くなります。
次に挙げられるのは環境への負荷の軽減です。
家畜の飼育は、世界全体で排出される温室効果ガスのうち18%を占めていると言われています[1]朝日新聞:培養肉が変える未来の食生活 「牛+鶏にエビ少々、コレステロール少なめ」などデザインは自由。
さらに、世界全体で収穫される穀物の47%が家畜の飼育のために使われている、というデータもあります[2]A.T. カーニー:How Will Cultured Meat and Meat Alternatives Disrupt the Agricultural and Food Industry?。
他にも培養肉を利用すれば
- 家畜が減るので家畜由来の感染症を減らせる
- 耐性菌の繁殖につながるおそれがある抗生物質を家畜に使わなくて住む
などのメリットもあります[3]MIT TECHNOLOGY REVIEW:高すぎる「培養肉」、
植物肉とのブレンドが現実的。
これらのメリットは、これからの時代をになう若い世代からウケがとても良い、SDGs的な要素が揃っています。
物珍しさもありますし、もし培養肉が普及したら食べてみようと考える人もいるはずです。
ただ培養肉にはとても大きな問題があります。
それはコスト、つまり値段です。
平均的な所得の人が食卓で食べるには、培養肉はあまりにも高すぎるのです。
「培養肉は値段が高すぎる」という大きな問題
2013年、オランダのマーストリヒト大学のマーク・ポスト教授は培養肉の試食会を開催しました。
下の動画は試食会の様子です。
この動画で調理・試食されているハンバーガーのパテは牛の培養肉です。
このとき食べられた牛肉パテには法外な値段が付けられています。
その値段はなんと32万ドル。
日本円に換算すると約3,500万円です。
パテは200グラムなので、1グラムあたり17.5万円となります。
試食会が開催されたのは2013年です。
では2021年、培養肉はどれくらいの値段になっているのでしょうか。
MIT TECHNOLOGY REVIEWが2021年6月に公開した記事によると
培養肉1キログラムはまだ数百ドルの値段になる。
とあります。
なので、2021年の時点で培養肉1グラムあたりの値段は数十円といったところのようです。
もし200グラムの培養肉を買ったら数千円から数万円かかる計算になります。
かなり安くなったとはいえ、まだ高級から超高級ステーキくらいの値段はするのです。
これでは、同じお金を払うなら培養肉より普通の牛肉をつかった超高級ステーキの方が良い、とみんな思うはずです。
2021年現在、培養肉はまだまだ高額でした。
では未来はどうなるのでしょう。
日本企業のインテグリカルチャー株式会社で代表取締役CEOをつとめる羽生雄毅さんは、2021年2月に公開されたインタビューで
コストは2025年ごろに100グラム600円まで下げたい
このように語っています。
このあと、2021年6月に公開された朝日新聞の記事では
コスト面、安全面での課題を独自技術でクリアできたことから、インテグリカルチャーでは効率性をさらに高め、2025年までに牛肉を100g当たり300円で作ることを目標としています。
このように、さらなるコスト削減に成功したことをうかがえるコメントをしています。
もし2025年に培養肉が100グラムあたり300円になったら、価格的には普通にスーパーに並べられる価格になります。
これが2030年になったらどうなるでしょう。
基本的には、テクノロジーは進化しつづけます。
もしかしたら、培養肉の値段は普通に流通する従来の牛肉よりも安くなっているかもしれません。
培養肉によって農業と食品産業はどんな影響を受ける?
培養肉の最大の問題である料金はどんどん下がる見込みであることがわかりました。
では、普通の食肉はこれから培養肉にスーパーの食肉置き場を奪われるのでしょうか。
世界トップクラスの経営コンサルティング会社として知られているA.T.カーニーは
How Will Cultured Meat and Meat Alternatives Disrupt the Agricultural and Food Industry?
日本語訳:培養肉と代替肉はどのようにして農業と食品産業を崩壊させるのか?
というレポートで、培養肉と代替肉が未来の食肉市場においてどれくらいのシェアを占めるかを予測しています。
世界の食肉市場における、培養肉の今後のシェア予測は以下のようになっています。
次は、世界の食肉市場における代替肉の今後のシェア予測です。
最後に、培養肉と代替肉が食肉市場全体を占める割合を整理すると以下のようになります。
2035年には、人が食べる肉のうち、半分近くが培養肉や代替肉になると予測されているのです。
さらに、A.T.カーニーによると、培養肉を生産するテクノロジー・技術を活用すれば
などの食肉だけでなく
なども生産できます。
これからの食卓に並ぶのは培養肉だけではないのです。
人工的に培養された「培養魚肉」や「培養エビ肉」などが食卓に並ぶ日も近いかもしれません。
ということは、これらの生産に携わる人たちは培養肉というか
「タンパク質の培養技術」
というテクノロジーの影響をもろに受けることになります。
培養肉と培養魚肉が畜産業と漁業関係者の仕事を奪う?
一昔前に
「AI(人工知能)が人の仕事を奪う」
という説がブームのようになりました。
A.T.カーニーのレポートを見ると、つぎは
「培養肉と培養魚肉が畜産業と漁業関係者の仕事を奪う」
という説が普及してもおかしくない状況です。
じっさいどのような未来が来るかは誰にもわかりません。
A.T.カーニーの予測が全然当たらない、なんてことも普通にありえます。
しかし、このような予測がある、ということを忘れてはいけません。
いまできることは、未来に備えて行動することです。
でないと、未来が到来した時に手遅れになりかねません。
引用・脚注
↑1 | 朝日新聞:培養肉が変える未来の食生活 「牛+鶏にエビ少々、コレステロール少なめ」などデザインは自由 |
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↑2 | A.T. カーニー:How Will Cultured Meat and Meat Alternatives Disrupt the Agricultural and Food Industry? |
↑3 | MIT TECHNOLOGY REVIEW:高すぎる「培養肉」、 植物肉とのブレンドが現実的 |
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