【研究結果】効率的に学びたいなら「生産的に失敗」するべき?

ふつう、学校で何かを学ぶときは

  1. 先生からその教科について教えてもらう
  2. 学習後、知識が身についているか確認するため試験(テスト)を受ける

という流れになります。
みなさんもこんな順番で学んできたと思います。

この順番が悪いという訳ではありません。
でもこの逆、つまり

  1. 何かを教えてもらう前に、これから学ぶ内容が出題された試験(テスト)を受ける
  2. 試験の後に先生からその教科について教えてもらい、学習する

こんな順番にすると学習効果がより上がる、という研究結果が発表されました。

働く社会人の学習にも使える方法なので、この記事では

  • 研究の内容について
  • なぜこの順番で学習効果が上がるのか?

などを説明します。
スキルなどを効率的に学びたい方はぜひ読んでください。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校のメタ分析

まずは研究の内容を紹介します。
学習の順番が学習効果に与える影響についての研究を発表したのは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校です。

スイス連邦工科大学のメンバーは、過去15年間に行われた教育関連の研究53本をメタ分析しました[1]ETH Zurich:Those who fail productively are all the wiser
その結果わかったのは

  • 何かの概念や知識を教えてもらうとき、事前にテストをしてから教わると学習効果が2倍に上がった
  • 事前のテストの段階で「生産的に失敗」しているとき、学習効果は3倍になった

という事実です。

サイト管理人 南研吾
サイト管理人 南研吾
「生産的に失敗」する方法については次の項目で説明します。

スイス連邦工科大学の研究メンバーはただ過去の実験を分析しただけではありません。
自分たちの学校の生徒を被験者にして、事前テストの効果をじっさいに確かめています。

研究者たちは大学で線型代数学(せんけいだいすうがく)という科目を学ぶ学生650人に対し、授業の前に生産的な失敗を促すようなテストを実施しました。
すると、コースの合格率は平均より20パーセントも上がりました(平均の合格率は55パーセント)。
ただ合格しただけではありません。
テストの点数もかなり良いものでした。

スイス連邦工科大学の生徒を使った実験でも、事前テストが学習に効果があることをしっかり確認できたのです。

教えてもらう前にテストすると学習効果が上がる4つの理由

何か新しいことを学ぶとき、その新しい内容のテストを受けてから学ぶと学習効果が上がる。
しかも、テストで「生産的に失敗」すると学習効果はさらに上がる。

これだけを聞くと、少し不思議な感じがしますよね。
教わっていない物事なのでテストで正解を出せないのは当たり前です。
なのに、テストをしてから学習すると学習効果が上がる。
これはどういうことなのでしょうか。

この方法で学習効果が上がるのにはしっかりとした理由があります。
何かを教わる前にテストすると学習効果が上がる理由は4つあり、キーワードは

  • 想起(そうき)
  • メタ認知
  • 好奇心
  • 違い

です。
それぞれ説明します。

「想起」により、学ぶ前の準備ができる

事前テストによって学習効果があがる理由の一つ目は「想起(そうき)」です。

新しいことを学ぶ前、これから学ぶ内容が出題されたテストを受けても、正解を出すことは難しいです。
これは答えを出すための知識が無いので当たり前のことです。
でもテストを受けているので、なんとか答えなくてはいけません。

このような状況だと、テストを受けている人は答えを導くため、自分の持っている知識をフル活用させることになります。
言い換えると、そのテストを解くのに使えそうな、自分の頭にある知識を思い出すことになります。

これにより、脳内にある過去の知識が活性化されます。
すると、自分の過去の知識と関連する「新しい概念・知識」を学びやすくなるのです。

人は新しく何かを学ぶとき、自分の頭の中にある、これから学ぶ物事と関わりのある知識を活用して学びます。
中学生になってから英語を習ったとき、英単語を日本語に翻訳したりして覚えたはずです。
つまり、このときは日本語の知識を活用して英語を学んだのです。
このような学びの仕組みは「知識効果」と呼ばれています。

事前にテストをすると、過去に学んだ知識が活性化されます。
そして新しい概念を学ぶとき、活性化された過去の知識が役に立つ、ということですね。

これが、事前テストによって学習効果が上がるひとつ目の理由です。

どんな知識が足りないのか「メタ認知」できる

二つ目の理由は「メタ認知」です。

近年、学習においてメタ認知が大事だという研究が増えています。
簡単に言えば
「何がわかっていないかを理解して学ぶ」
これが大事、ということです。

新しく何かを教わる前にテストを受けても、その問題を解くことは難しいです。
なので事前テストを受けた人は、新しいことを学ぶ前に
「自分が何がわからないか?」
これがわかります。
これによりメタ認知が促され、学習効果が上がる、ということですね

新しいことを学べることがわかり「好奇心」が高まる

三つ目の理由は「好奇心」です。

人はほんらい新しいことを学ぶのが好きな生き物です。
少なくとも昔は、新しい物事を貪欲に学ばないとこの世界で生存できませんでした。
なので、これは人間に本能として備わっているものです。

二つ目のメタ認知と被りますが、メタ認知を活用し
「何がわかっていないかを理解する」
ということは
「これから新しい何かを学ぶことを理解する」
ということでもある。

人は
「これから新しい物事を学べる」
と理解すると脳内にドーパミンという神経伝達物質が放出されます。
ドーパミンが脳内に放出されると

  • ワーキングメモリが活性化する
  • 記憶の定着率がアップする

などの効果が期待できます。

なので、事前テストを受け

  • 何がわかっていないかを理解する
  • そして、これから新しい何かを学ぶことを理解する

このようなステップを脳内でふむと脳内にドーパミンが放出され、学習効率が上がるのです。

すでにある知識と新しい知識の「違い」を意識できる

最後の理由は「違い」です。

さきほど人は何かを学ぶとき、すでにある知識を活用すると説明しました。
すでにある知識を活用して新しい物事を学ぶとき、頭のなかでは

  • 古い知識
  • 新しい知識

この二つの知識の違いを意識して学ぶと知識効果を効果的に活用できます。

事前にテストを受けると、この違いを意識しやすくなり、効率的に学べるようになるのです。

4つのステップにより「生産的に失敗」できる

スイス連邦工科大学の研究では、事前にテストを受けてから学ぶだけでも学習効果は2倍になりました。
これが、事前テストのときに「生産的に失敗」していると、学習効果は3倍に上がっていました。

この「生産的に失敗」とは、紹介した4つのステップをしっかり踏みながら失敗することです。
つまり、事前テストの最中や後に

  • 自分が持っている古い記憶を「想起」する
  • 正解を導くためにはどんな知識が足りないのか「メタ認知」する
  • これから新しいことを学べる、と理解して「好奇心」をもつ
  • すでに持っている知識と新しい知識の「違い」を意識する

などの活動を脳内ですることにより、失敗がより生産的になるのです。

ただ、もしこの方法を試すなら基礎的な知識をすでに持っているジャンルで試してください。
というのも、ある程度の知識があるジャンルでないと事前テストはできないし、学習効果が期待できないからです。

スイス連邦工科大学の研究でも、事前テストの学習効果は
小学生<中学生以上
となっています。
つまり、基礎的な知識がある人がおこなった方が事前テストは効果的なのです。

事前テストはすこし面倒だと感じるかもしれません。
それでも
「事前テストで生産的に失敗すれば、学習効果が3倍に上がる」
という結果はとても魅力的なので、ぜひ学習に取り入れてみてください。

引用・脚注

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