1800年代の前半。
イギリスで労働者が機械を破壊する運動が起きました。
この運動というか暴動は
「ラッダイト運動」
と呼ばれています。
この記事では
- ラッダイト運動はなぜ起きたのか
- 機械を破壊することに何か意味や価値はあったのか
を解説します。
人とテクノロジーの関係性や、仕事の自動化による技術的失業に興味がある方はぜひ読んでください。
ラッダイト運動に参加したのはどんな人?
はじめに、どんな人がラッダイト運動に参加したかを整理しましょう。
ラッダイト運動に参加したのは、いわゆる
「労働者」
です。
労働者の中でも、綿をつかって手作業で織物をつくっていた労働者がラッダイト運動に参加したと言われています。
現在でいうところの「職人さん」ですね。
当時のイギリスでは綿織物は一大産業でしたから、かなりの数の職人が綿織物を作っていたはずです。
職人たちがラッダイト運動に参加した理由は「技術的失業」
つぎは綿織物の職人がラッダイト運動に参加した理由についてです。
ラッダイト運動が起きた1800年代前半、イギリスは産業革命の最中で技術革新がどんどん起きていた時期です。
綿織物についても、発明家のエドモンド・カートライトが
「力織機(りきしょっき)」
という機械を発明しています。
力織機を使えば、労働者ひとり当たりの綿織物の生産量が高くなります。
いま風に言えば
「生産性の向上」
が実現できたのですね。
生産性が向上することはとても良いことです。
しかし、働く人にとって不利益なことが起きました。
効率的に綿織物を作れるようになったのは良いのですが、生産性が上がった結果として、少ない働き手でも職場がまわるようになったのです。
そして、一時的とはいえ失業つまりクビになる職人が出てきました。
今まさに機械によって起きている失業。
将来自分の身に起きるかもしれない失業に対する不安や恐怖。
これらがきっかけで、綿織物の職人たちはラッダイト運動に参加した、というのが一般的な説となります。
このような、技術の進歩によって起きる失業は
「技術的失業」
と呼ばれます。
ちなみに技術的失業は「テクノロジー失業」とも呼ばれます。
職人たちの社会的な地位や自尊心が奪われたから起きたという説も
ラッダイト運動が起きた原因について、面白い説があったので引用して紹介します。
機械の導入により,手工業者(労働者)たちの労働の質は一変することになる。
編み物をするなら,編み物をするための技能が必要になるが,それは何年もの修行期間を経て,初めて身に付けられるものであった。
労働者たちは,自分たちの技能に誇りを持っていたし,その技能があればこそ,見習い職人から尊敬も受けることができた。
そして,技能の確かさは職人の社会的地位を生みだし,彼等に発言力をもたらすことにもなった。
ところが,機械の導入は,これら全てを台無しにしてしまうものだったのだ。引用元:21世紀のネオ・ラッディズム
つまり、ラッダイト運動を起こした職人たちは仕事(雇用)だけでなく
- 社会的な地位
- 自尊心
なども機械に奪われ深く傷ついたから暴動を起こした、という訳です。
今も昔も、ほとんどの人にとって生活の基盤になるのは仕事です。
そして、仕事で日々の糧を得るだけでなく、自分が存在する意味や価値などを見出している人は多いはずです。
失業による心理的なストレスはものすごく高いことが研究によってわかっています[1]国立保健医療科学院:ライフイベント法とストレス度測定。
そんな、人のよりどころになる仕事が機械によって次々に奪われたら、現代でも暴動が起きかねません。
ラッダイト運動に意味や価値はあったのか?
ここまで、ラッダイト運動が起きた理由を説明してきました。
たしかに、自分の仕事が機械に奪われるのはショッキングな出来事です。
けれど長期的な視点で見て、ラッダイト運動には何か意味はあったのでしょうか。
人の仕事を自動化する機械を壊すことは、人にとって価値のある行動だったのでしょうか。
ラッダイト運動の後も産業革命は続いている
ラッダイト運動が起きたのは
「第一産業革命」
と呼ばれる、産業が革命的に転換・進歩していたタイミングです。
その後もテクノロジーの進化は止まらず
- 第二次産業革命
- 第三次産業革命
- 第四次産業革命
このように、産業革命は続いています。
産業革命は人々のくらしを飛躍的に向上させた
産業革命が進行するにつれ、人々の生活はどんどん豊かになりました。
具体的な例をあげると
- 乳幼児死亡率が大幅に減った[2]厚生労働省:人口動態統計100年の年次推移
- 人の寿命が伸びた[3] … Continue reading
など、明らかに生活の質が上がっていることを示すデータがたくさんあります。
ラッダイト運動が成功したらどうなっていた?
もしラッダイト運動がイギリスの国民全体に広がり、便利な機械がすべて破壊されたらどうなっていたでしょうか。
第一次産業革命は途中で終わり、その後に続いた産業革命も無くなっていたかもしれません。
となると、とうぜん2021年のいまの世界にはインターネットもスマホもなく
- Amazon
- Netflix
などの便利なサービスもありません。
新型コロナのような感染症が大流行したときは大変です。
治療薬がありませんし、ワクチンを開発することだってできません。
とうぜん、世界中の人々がどんどん亡くなります。
このような、テクノロジーとは無縁な不便な世界を望む人は少ないと思います
やはり、昔よりも今の方が圧倒的に便利で快適なくらしが出来ているのです。
このときは世界中で数千万人以上の人が亡くなっています[4]国立感染症研究所:インフルエンザ・パンデミックに関するQ&A。
ラッダイト運動が失敗したから今の便利な暮らしがある
話をラッダイト運動に戻します。
ラッダイト運動は数年にわたって続きました。
しかし、産業革命を進めて豊かになりたい国(イギリス)が国民による機械の破壊を放置するはずがありません。
やがて首謀者たちはつかまり、処刑されました。
自分や仲間たちの仕事を奪う機械に対する反乱を起こし、そして処刑された首謀者たちは気の毒です。
しかし現在の豊かな生活を楽しんでいる我々にとっては、ラッダイト運動が失敗におわってラッキーだった、という風に感じる人は多いと思います。
長期的に見れば、ラッダイト運動が失敗したから世界中にテクノロジーが浸透し、便利な暮らしを楽しめているとも言えます。
よって私の個人的な意見としては、ラッダイト運動に意味や価値は無い、と考えています。
テクノロジーを使いこなすことが大事
いまはテクノロジーの時代です。
そして、テクノロジーの進化のスピードは止まりません。
止まるどころか、加速しています。
下の図はGoolgeでエンジニアとして働くエリック・テラーが
- 人間の適応力
- テクノロジーの進化
この二つの関係性をグラフで描いたものです。
テクノロジーが人間の適応力を超え、超えた後もものすごい勢いで進化していることがわかります。
もしこのグラフが正しいなら、これから私たちはいま以上に素晴らしいテクノロジーに囲まれることになります。
テクノロジーが進化すると、人の仕事はどんどん自動化されます。
これはいつの時代も同じです。
1800年代のイギリスだけでなく、2021年を生きている私たちも機械による自動化によって仕事を奪われます。
じゃあ私たちはテクノロジーとどう付き合えばいいのでしょうか。
答えは簡単です。
ラッダイト運動に参加し、処刑された職人たちを反面教師にするのです。
つまり
- テクノロジーをつかいこなす人になる
- テクノロジーを発明する人になる
このどちらかになるしかないのです。
くれぐれも、テクノロジーを壊す側にいってはいけません。
テクノロジーは普通の人でも使えるようになって初めて普及するものです。
だから「つかいこなす人になる」が選択肢になると思います。
2010年代になり
「AI(人工知能)やロボットが人の仕事を奪う」
という話を聞くことが増えました。
これについても、対応方法は限られています。
テクノロジーを使いこなす。
もしくは作る側にまわる。
もし豊かに暮らして行きたいなら、テクノロジーは受け入れるべきです。
テクノロジーを受け入れるためには、学び続けなくてはいけません。
つまり、新しいことを学び続けことが大事なのです。
引用・脚注
↑1 | 国立保健医療科学院:ライフイベント法とストレス度測定 |
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↑2 | 厚生労働省:人口動態統計100年の年次推移 |
↑3 | エコノミストOnline:「江戸時代の平均寿命は30歳」はなぜ「江戸時代の人は30代で死ぬ」ではないのか=松本健太郎(データサイエンティスト&マーケター) |
↑4 | 国立感染症研究所:インフルエンザ・パンデミックに関するQ&A |
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